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期間限定「ピノフォンデュカフェ」に見る、リッチなブランド体験のための場所づくりとは
Case: ピノ「ピノフォンデュカフェ」
話題になった、または今後話題になるであろう日本国内の広告・クリエイティブの事例の裏側を、案件を担当した方へのインタビューを通して明らかにしていく連載「BEHIND THE BUZZ」。今回は「ピノフォンデュカフェ」を取り上げます。
この「ピノフォンデュカフェ」は「ピノアイス」に特製チョコレートソースやマシュマロクリームなどを自分で自由につけて楽しむことができる「ピノフォンデュ」専門店としてこの夏(2015年7月3日~8月30日)、東急プラザ 表参道原宿に期間限定で展開されました。この店舗のコンセプトや成果について、株式会社 タンバリン 代表取締役共同CEO クリエイティブディレクター 藤井一成さん、株式会社アーキセプトシティ 代表取締役 クリエイティブディレクター 室井淳司さんに伺いました。
Interview : 石原 愛美(Aimi Ishihara)/Text : 市來 孝人 (Takato Ichiki)
「買いたい」と思ってもらえる場にすることが「自分が選んだブランド」という信頼感につながる
―商品自体も歴史がある中で、今年あえてリアル店舗という形の施策を始めたきっかけはどのようなものですか?
藤井:昨年オリエンを受けた際、空気のような当たり前の存在になってしまったピノを能動的に買いたくなるような企画を自由に提案してほしいというお話を頂きました。ピノは100億円以上の売り上げがある、数少ないアイスのブランドのひとつで、来年40周年を迎えるロングセラー商品です。ただデータを見ると(ロングセラーである分)ヘビーユーザーがシニア化し、20代以下の若者の認知と喫食が低下しつつある傾向にあったので、ブランドの未来をつくるためには若年層のエントリーをしっかりとっていかないといけないと思いました。若年層を取り巻く情報は多く、また嗜好も多様化しているので、好みが見えなくなっていますよね。そんな彼ら・彼女らに、アイス売場で並んでいるピノが「輝いて見える」ようにすることが大事だと思いました。
そういった今のピノの状況では、CMで情報を一方的に訴求するより、若者の日常で話題になるように入り込むことが必要だと思いました。ピノの一粒で小さくてかわいい形状は、アイスの中でも個性的ですよね。その個性ゆえ、もともと友達や家族と分けて食べたりした「楽しい記憶」があるブランドなんです。改めて、みんなで楽しく食べて強い記憶に残る今の時代に合った新しいピノ体験が出来る場所を作らないといけないと思いました。そこでパートナーとして、空間における体験づくりのプロフェッショナルである彼に声をかけました。
―その空間のこだわりについてお聞かせ下さい。
室井:これまで、博報堂にいた頃からブランド戦略に沿った空間のデザイン・体験に携わっていました。そんな中で情報発信の環境としてはブログが10年程前から出始めて、さらにTwitterも出てきて、消費者がイージーに情報を出せるようになってきました。そんな中では、いかに自発的にポジティブな情報を個人から発信してもらえるブランド体験の機会を作っていけるかが大事だと考えています。
今若い子達の中ではアイスといっても選択肢の幅があります。昔はピノの六粒がプレミアムなものだったのが、今は様々なブランドが出てきて「せっかくだからアイスを食べよう」となると、よりプレミアムなものを買うんですよね。たとえ少し高くても、その値段で買った体験がいかに楽しいかというのがブランドへの信頼度になるので、そういった体験を作る為に「ピノをどうやったら楽しく食べてもらえるか」というメニュー開発は力を入れました。
藤井:今の若い子達がピノを「楽しい」と思う体験やメニューは何だろう、とかなり考えましたね。例えばフルーツを混ぜたりとか、パフェにしたり、マカロンみたいに色鮮やかに並べたりとか。
―その中でフォンデュに決まったのは、どういった理由ですか?
室井:こちらでメニューを作ってお出しするのではなくて、体験として、お客さんが最後ひと手間かけて作るのが大事なのではないかと考えました。
藤井:お店では商品のチョコより少しリッチなチョコを使っているのですが、アイスが冷たいので、チョコを浸けるとまるで科学の実験のように数秒で固まります。そのあとマシュマロクリームをつけます。さらに6つの中から選んだ2つのトッピングを乗せて、色を楽しんだり、歯ごたえを楽しんだり出来ます。
そして最後に商品をのせるトレイですが、これこそが今回のクリエイティブの最終アウトプット。通常の広告におけるCMやグラフィックと同じものなんですよね。お客様の手元にあるアウトプットがチープだと、体験そのものが結局残念なものになってしまう。このトレイについては室井くんからいろいろなタイプの提案をもらい時間をかけて決めました。ここはちゃんとコストをかけようと予算の配分をし、このトレイで提供されることで、ブランドの体験がリッチなものになるようにと考えました。
室井:太さ、重さ、持ち感…チープにならずに、かつピノ感も出しつつ。店舗のトンマナにも合わせて。
藤井:また、350円という値段も実はすごく吟味しました。元々のピノの価格も鑑みつつ、このカフェでの体験がどれだけお客さんの期待を超えられるかという点でコストパフォーマンスは重要でした。例えば700円だったり800円だったり、値段が高いと「こんなもんか」になりかねないので。
室井:プロモーションで陥りがちなのが、全部ブランドのロゴやカラーで作ってしまうことです。そうしてしまうと企業主語になってしまうのであくまで「ただで配ります」「試食」というように見えてしまうんです。お客さんにとって、お金を払ってでも「買いたい」と思ってもらえる場にすることが「自分が選んだ」という信頼感につながります。
その考えでは、ピノの世界観で(パッケージの)真っ赤に染めるのではなく、ターゲットとなる10代後半から20代前半の女の子に「かわいい」と思ってもらえる、そういった空間を作ることが重要だったんですよね。居心地のよい木目調のインテリアの一方、商品のロゴは最小限にしました。「お客さんがアイスを楽しんでいて、それがたまたまピノだった」というのが文脈として最も美しいので。
―期間限定の展開とした理由は。
藤井:長期的に、例えば 1年やるということも最初は案としてあったのですが、ある期間に集中することでより「強い体験」を提供したかったのです。ただしそれが短すぎてもメディアの方が取り上げにくくなるので、メディアでの広がりをつくることができるよう十分な期間を考慮しました。
―こういった施策を、実際にクライアントへ提案したときの反応はいかがでしたか。
藤井:CMも含めたオリエンでしたが、我々は「リアルな体験を核にした情報のつくり方」を提案いたしました。クライアントのご担当者も今までとは違った新しいお客さんとの関係づくりが必要と思われていたようで、決定までは非常に早かったです。ただその後時間をかけて話し合ったのは「ピノらしさ」と「新しさ」の配分ですね。全てにおいてそのバランスの調整が大変でした。やはりこれまではブランドそのものをいかに強く伝えるかという施策が多かったようでしたので、若者の日常に入り込むための「引き算」の程度に関しては慎重に決定していきました。
「写真」については強く意識。どこをとっても写真を撮りたくなるような空間に
―立ち上げる際の告知などはどのようにされたのですか。
藤井:今後情報の核となる体験も、純広も全く無い中で、立ち上げ時からお客さんが入る絶対的な保証は無しでした。ですから、6月18日に解禁したリリースでお店での体験への期待感をつくる必要がありました。AD岡室健氏(博報堂)のてがけたグラフィックは、トッピングなどのパーツをすべて手で切り取り、そのパーツを重ねて再び撮影をするという手の混んだもので、まさにひと手間かけて可愛く美味しい体験へ期待をさせるものに仕上がりました。このグラフィックを含んだリリース情報が事前にネット上で凄い勢いで広がったことも、開店初日からの行列につながったと思っています。
―ピノフォンデュの写真の投稿を促すキャンペーンも実施されていますが、こちらの狙いについては。
藤井:今回は「写真」について強く意識をしました。このお店の、どこをとっても写真を撮りたくなるようなフォトジェニックな空間にしようと、例えば看板の位置を顔と同じ高さにして来店の記念写真を撮りたくなるようにしたりとか。
SNSでの情報拡散の元ネタは「(無理に)押し出さないといけない」と思うものは結局なかなか広がらない。でも、いいものは自然に広がるものじゃないですか。原宿の一店舗での体験の楽しさが全国に広がるためには、自発的に、話したくなったり、推奨したくなるような、強くて、伝えやすい体験を作る必要がありました。
―来店客の方の反応はどのようなものが多かったですか。
藤井:オープンから連日行列が絶えないほどの盛況で、地方からも多くのお客様に来店を頂きました。想像を大きく超える反応ですね。20代以下のお客さまを中心に、友達とご来店頂きピノの共体験をして、楽しんでくださりました。そして、ほぼすべてのお客さまが(写真を撮る為に)携帯を片手に、行列に並んでいるところから撮影が始まり、ピノを作って、食べるまでずっと撮影をしてくれていました(笑)。ターゲット層の夏休みの出来ゴトである花火やショッピング、お泊り、オープンキャンパスなどの日常の中にピノを入れて頂きたかったので、夏のひとコマにピノフォンデュカフェで楽しんでいる姿がInstagramやTwitterに溢れて、とてもうれしかったですね。
―さらには、原宿という立地なので、外国人観光客の方も多かったのではないですか?
藤井:実はその点は、最初は考えていなかったのですが多かったですね。特に欧米の方が多いです。
室井:欧米のアイスはリッチ文脈で描かれていることが多いですが、こういうグラフィックも日本のアニメなどのポップカルチャーを想起させて新鮮なのかもしれないですね。
―今回の施策のポイントについて、お二人それぞれの観点から改めて振り返って頂けますか。
室井:商品特性やタイミングによって「体験」が必要な企業と、必要ではない企業があると思っていて、ピノは食べる体験が出来ますし、前者が必要なタイミングでもありました。また、その体験自体にどう非日常感やちょっとした新しさをどう作っていくかが大事だなと思っています。
藤井:こういったリアル体験をつくる施策の場合、企画するだけではなく最終アウトプットまでディレクションを出来る体制をつくることが大事です。例えば今回で言うと、飲食提供の部分をアウトソースしてしまうとメニューにも関われなかったり、厨房の状況を把握出来なかったりするんです。今回は店舗のオペレーションまでを含めひとつのチームを構築したことで、クリエイティブすべての状況を常に把握してワンストップでディレクション出来ました。僕も厨房に入ってスタッフと話をしたり、企画の意図を理解してもらうために説明をしたり、スタッフみんなでご飯に行ったりして現場の状況をヒアリングしたりしています。彼ら店舗スタッフはCMでいうと出演のタレントさんと同じでとても大切な存在なんですよ。企画段階から毎日お店で提供されるアウトプットまでを一つ一つを見ていくことが成功の秘訣かなと思います。
株式会社 タンバリン
代表取締役共同CEO クリエイティブディレクター
藤井一成さん(右)
株式会社アーキセプトシティ
代表取締役 クリエイティブディレクター
室井淳司さん(左)
PR EDGEより転載
https://predge.jp/96463/
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