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みんなが期待している“半歩先のこと”が最大の魅力 ピクス・弓削淑隆

技術の進化に伴い、新たなテクノロジーでかつてない空間演出、映像表現が可能になった昨今。だからこそ求められているのはバーチャルの先にある“リアル”なのかもしれない。
 
今回、SPACE MEDIAを運営するミューカ代表・大塚省伍が話を聞いたのは前職では空間プランナーとしてデジタルサイネージ事業に従事し、現在はミュージアムやテーマパークなど幅広いジャンルで活躍するクリエイティブ・プロデューサー、株式会社ピクスの弓削淑隆氏。新時代の映像体験とはいかなるものなのか?その熱い想いを語ってくれた。
 

 
「映像は見るものから 体験するものへ」に感銘を受けて
 
大塚:弓削さんとは前職の頃に一緒にお仕事をさせて頂き、大変お世話になりました。
 
弓削:こちらこそお世話になりました。東京、大阪とどちらも刺激的な職場でした。
 
大塚:前職では空間プランナーでありながら営業もやられてましたよね?
 
弓削:そうなんです。大塚さんもご存知のように前職の会社は売れればどんなものでも売ってもいいという会社でしたよね。社会人3年目の頃全く売れない営業マンでした。そんな中、興味を持ってやり出したのが空間に合わせたフルカラーLEDの演出照明。光をコントロールするとグラフィックや建物の壁面が動き出したり、20年程前の当時としては新しい形の空間演出でした。
 
その頃、営業していたのがアミューズメントホールで、当時知り合っていた若いキーマンが世界中のエンターテイメントを学びにラスベガスやマカオによく行くような人だったんです。色々なリファレンスを元にたくさんのチャレンジをさせて頂きました。もちろんたくさんのご予算をお持ちだったので笑
 
当時はデジタルサイネージという言葉もなかったんですけど、LED表示機や、プロジェクターで映像を使った演出から内装デザイン、演出照明まで自由に色々なことをやらせてもらいました。それを機にどんな案件もどんどん企画できるようになって、内外装や演出もトータルでやらせてもらった結果、売上も上がって営業でトップになれたんです。
 
大塚:そこからデジタルサイネージの事業へ?
 
弓削:はい。自分なりに結果を出した頃にもっとクリエイティブのことを勉強したいと思うようになり、プランナーに集中したいと会社に打診しました。その際にデジタルサイネージの事業立ち上げに携わって欲しいと言われたんです。
 
自分的には「これからはデジタルサイネージだ」と思っていたのでベストタイミングでした。アミューズメントホールで散々経験してたものの、当時はまだサイネージ自体が一般的に浸透してなくて実際にやっている企業もごくわずか。でもLEDやディスプレイがすごく安くなってきた時代だったので、これからもっと広がるという自信があったんです。


 
大塚:ピクスに転職したきっかけは?
 
弓削:デジタルサイネージをやる中で、空間と映像、テクノロジー連携でもっと色々な表現ができるんじゃないかと、そして世の中の色々な映像クリエイターやエンジニアとチームで仕事をしたいと思っていたんです。そんな時にピクスが手掛けた東京駅のプロジェクションマッピングを拝見し、自分にとっても映像業界にとっても大きなターニングポイントだと思っていた頃に、良い縁があってピクスに入社することになりました。
 
大塚:ピクスに入ってからの印象的な仕事は?
 
弓削:新潟県上越市に作った日本と世界をつなぐ天然ガスのミュージアム「INPEX MUSEUM」ですね。2013年に入社した時にピクスがこのプロジェクトをやることが決まっていて、外観デザインから内装、映像音響機器、映像コンテンツと全体の総合プロデュースのメンバーとして携わることが出来ました。
 




弓削:日本最大の石油・天然ガス開発企業の国際石油開発帝石株式会社(INPEX)の企業ミュージアムで『天然ガスって何?』というテーマで円環没入スクリーンとジオラマへの3Dプロジェクションマッピングで紹介する体感型ミュージアムです。
 
大塚:こだわった点は?
 
弓削:天然ガスってなかなか身近に感じられないですよね。そこで、体感と解説の2つで理解してもらうために、お客さん自身が天然ガスの視点となって古代から現代まで時空を越えた旅をする没入型のアトラクション体験映像を制作しました。
 
何千万年も昔に死んだ動物や植物が地中に埋没し、長い年月をかけて分解してできた天然ガスがどのような経緯で今に辿り着いたのか、それを映像とともに体験することで天然ガスの起源から特徴、必要性を伝えようと思ったんです。180度の円環スクリーンで、その中に入ると部屋自体が移動していると感じる様に設計する事で天然ガスの旅を感じてもらおうと考えました。
 
解説映像はすごく真面目にやっちゃうと難しいので、ジオラマとプロジェクションマッピングで誰にでもわかりやすく伝えることに気をつけました。当初、関係者のために作ったものなんですが、今では小中学校の課外学習や様々な方々のミュージアムとなっています。ピクスとしても大きなプロジェクトでしたが、自分にとっての代表作でもあります。
 


大塚:ちなみに楽しかったお仕事は?
 
弓削:パナソニックが発表した高速プロジェクションマッピングシステムのデモコンテンツを制作し、ラスベガスで発表したプロジェクトは大変だったけど、楽しかったですね。
 
通常のプロジェクターが1秒間に30~60枚を描画するのに比べ、パナソニックのシステムは毎秒1920枚を描画する事が可能で高速の人の動きにも遅延することなくプロジェクションできるシステムだったんです。コレを見た時にステージ演出やオリンピックの開会式で使えると思いました。
 
システム自体が動く人を完全に捉えてマッピングできるので、ダンサーに協力してもらって映像と身体の動きをミックスさせた独特な世界観のライブショーができるんじゃないかと、プロジェクトチームを立ち上げました。


 


弓削:しかし、当時は色数も少なく、明るさも鮮明でなかったのでそんなに思ったような表現ができなかったんです。会場ではエンターテイメント業界の方々が多く見られていて、「すごく興味深いけど、色数や、明るさがもっと欲しい」との声がありPanasonicさんが次に進化したプロジェクターで発表したのが2017年の「EXISDANCE」。
 


弓削:空手と日本のテクノロジー&カルチャーを象徴するようなダンスに映像が高速追従し、その世界観を拡張演出するというライブショー。人の身体にリアルタイムでひねりまで加えてプロジェクションできる仕組みは世界初でPanasonicと共同で開発し、発表をしました。
 
エンターテイメントの本場オーランドでのInfoComm2017で賞を受賞し、様々な世界中のメディアから取材を受け、作品が世界中に広がったことは嬉しかったですね。その後もアメリカのテレビ番組にも参加させて頂きました。
 
印象的だったのは、この3年間に渡るプロジェクトはピクス内外の総勢20名ほどのメンバーで取り組んでいて、様々な分野のメンバー同士で、色々な意見を出し合いながら制作していく中で、このチームだからこその新たな表現や体験の開発を生み出すことを経験できました。このチームでのものづくりの経験は今のチームづくりの考え方のベースになっています。
 




チームプレイから生まれる「新しい発想」
 
大塚:弓削さんがチームで仕事をする上で特にこだわっていることは?
 
弓削:僕が所属するP.I.C.S.TECHというチームは、「Creative」「Space」「Technology」の3つのキーワードで『新しい映像体験』を作り出していくクリエイティブチームで、様々なバックグラウンドを持った8名のメンバーがいて、違った角度からのアイディアを出し合う事で、物づくりに取り組んでいます。
 
チームでの取り組みでは、意見を出し合える環境を作れる事が大事だと思っています。お互いの共通ポイントを双方が理解している事と一人ひとりが持つ独自の視点を理解することで、足し算に加え、掛け算的にボーダーを超えることができます。
 
TECHではチーム内コラボも外部とのコラボもおもしろがって取り組んでいるので、プロジェクトが終わってみるとクライアントとも垣根を越えて1チームになっていることも多いですね。
 
 
【P.I.C.S.TECHが行った開発案件】
 
東京国際フォーラム開館20周年記念イベント「光のアクアリウム」
建築×テクノロジー×映像を総合プロデュース




 


 
工学院大学 キネティックウォール「THE WALL」
アトリウムの空間演出を総合プロデュース




 

 
 
アフターコロナこそ「リアル」が磨かれ、ハイブリッドが生まれる
 
大塚:コロナ後の映像表現や空間演出はどうなると思われますか?
 
弓削:新しいハイブリッドな演出が生まれるのではと考えています。コロナ以前、僕らはリアルが中心だったのですが、昨年の夏から今年の3月までの仕事がほぼオンラインになりました。
 
新製品発表会、カンファレンス、プレゼンテーション、音楽ライブ。その撮影、配信、演出と色々と取り組む中で、せっかくやるならリアルの代替えではなく、オンラインならではの体験価値を作ることに重きをおこうと考えながら取り組んでいました。また、世界中でそのような取り組みがたくさん生まれていたのが刺激になりました。
 
僕自身、変化を実感したのが、モニターの先のリアルを今までよりかなり感じられるようになったことです。コロナ前も、テレビ会議やオンラインはありましたが、ほとんどやってなかったと思うんです。しかも当時はその先にリアルがあるって全然感じてなかった。
 
でも実際に試してみると、オンラインだけど家族と繋がって顔を見て話せたり、生の声と表情を確認できたり、意外にリアルが同居していると実感したんですよね。だからもっとリアルについてみんなが真剣に考えるようになり、その必要性が求められるんじゃないかと。
 

 
それと同時にオンラインの良さも分かったと思うので、両方のハイブリッドが標準になってくると思っています。それを掛け合わせることで新しいものが生まれて来ると思います。
 

 
「リアル」と「バーチャル」の境目にある未来感



大塚:OOHについての未来も伺いたいんですが。
 
弓削:今後OOHがおもしろくなるのではと思ってて。OOHをリアルな特定の場所として捉えた時に、そこの場所でしか体験できないことや、そこでしか見られないものといった特異性のある場所には今までよりもリアルの価値が高くなる気がします。
 
それに加え、都市自体のDXがこのコロナで加速していて、そのリアルな場所とデジタルデータ化された場所の融合に新しい表現や体験の可能性があると考えています。
 
長年人々を魅了してきたプロジェクションマッピングには大きなヒントが詰まっていたと改めて感じます。リアルな日常だと思っていたことが、リアルとバーチャルとの境目を感じると非日常なエンターテイメントに変わる。そんな境目の仕掛けが出来れば最高だと思います。
 
自分が目指しているのは一歩先というよりも半歩先の未来。ほんの少し想像できる未来でサプライズを生みたいんですよね。近い未来だからこそ多くの人に期待してもらえると思います。
 
 

まとめ 

コロナ禍のおうち時間が与えてくれたデジタルの中のリアル。それこそが次世代のサプライズを生み出してくれる逸材なのかもしれない。双方のイイトコ取りで柔軟な発想と貪欲な追求がワクワクするような未来を作り上げるはず。そしてピンチにこそイノベーションが生まれるのかもしれない!
 
 

プロフィール

 
弓削淑隆氏(ピクス/クリエイティブ・プロデューサー/ストラテジスト)
 
空間プランナーとして映像、演出照明を用いたデジタルサイネージ事業に従事。2013年ピクス入社後はプロデューサー/テクニカルプランナーとしてP.I.C.S.TECH立ち上げに関わる。テクノロジーと空間を融合させた映像演出を企画・プロデュース。現在はP.I.C.S.TECHの総合的な企画・進行を行うクリエイティブ・プロデューサー/ストラテジストとして従事。
 
https://www.pics.tokyo/member/yoshitaka-yuge/

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