OOHニュース
世界でバズった「新宿東口の猫」誕生秘話 株式会社オムニバス・ジャパン
2021年7月、JR新宿駅東口のビル屋上に登場した「新宿東口の猫」。画面から飛び出して見える3D映像とリアルな猫のしぐさが話題となり、SNSやネットニュースで世界中に拡散した。誰もが思わず見上げる新たなランドマークを制作したのは、テレビ番組や映画などで多数の実績を誇るオムニバス・ジャパンだ。2021年OOH業界最大のトピックスともいえるこのプロジェクトは、どのように形になっていったのだろうか。執行役員の迫田憲二氏とエグゼクティブクリエイティブディレクターの山本信一氏に、制作秘話を聞いた。
精緻な研究で猫のリアルな姿を表現
大塚:まず、御社の事業内容と特徴を教えてください。
迫田:映像業界におけるクリエイティブプロダクションとして、映像編集から音響、CG制作まで総合的に手がけています。ジャンルもCMからテレビ番組、映画、配信ドラマを基本軸に、展示映像やサイネージなど幅広く取り扱っています。
大塚:マルチでトータルにサービスを提供できるというのは強いですね。迫田さんはこれまでどういった道のりを歩んでこられたのでしょうか。
迫田:現在は経営に軸足を置いていますがもともと技術畑の人間で、CMや映画でCGスーパーバイザーなど務めていました。2018年公開の映画「空海−KU-KAI−美しき王妃の謎」ではVFXプロデューサーを担当しました。
大塚:山本さんはクリエイティブディレクターのほか、メディアアーティストとしての顔もお持ちですよね。作品の一例を教えていただけますか?
山本:近年ですと、池袋の「グローバルリング」やプラネタリウムでの映像作品、XRを使った体験型アート、日本科学未来館の球体作品などがあります。以前はディレクター業務とアーティストとしての創作活動を両立する形でしたが、現在では両立というより統合しつつありますね。
左上から、池袋グローバルリング/ MUTEK.JP / INVISIBLE ART IN PUBLIC Vol.2 Synthetic Landscapes /新宿クリエイターズ・フェスタ
大塚:OOHにもご縁が深いんですね。「新宿東口の猫」はどういったきっかけで生まれたんですか?
山本:クロス新宿のビジョンを所有するオーナーさんからのコンペ企画に参加しました。「サプライズがあるクリエイティブ」として複数案出品した中から採用されたものです。
「新宿東口の猫」
猫に会いに大勢の人が新宿を訪れた
大塚:モチーフとして猫を選んだ理由は?
山本:数年前から猫ブームと言われるように猫好きな人は多いですし、私自身もよく動画を見ています。新宿のゴジラヘッド、お台場のガンダムのように、街を象徴するランドアイコンになればという意図があり、猫を選びました。
おそらく、車やロボットではここまで注目されなかったのではないでしょうか。
また、以前に猫をフルCGで制作するため生態を研究した経緯があり、その際に得られた知見を活かしたいという想いもありましたね。テーマパークのキャラクターのように積極的に話しかけるのではなく、あくまでも猫の日常を描いたものにしようと決めました。
大塚:確かに、寝転がったり、伸びをしたり、猫のリアルな姿が描かれていますよね。猫の動きは具体的にどのように研究されたんですか?
迫田:スタッフの飼い猫を連れてきてもらって挙動を撮影したり、猫カフェに行ったり、文献で猫の筋肉や骨格を調べたりしました。表情についても膨大な量の猫の写真を参考にして喜怒哀楽を表現しています。
猫に限らず、CG制作の現場ではこのように実物をつぶさに研究するということが必要なので、これまでのノウハウが活かせたのではないかと思っています。
大塚:実際、オープンしてから大変な注目を集めましたね。これほど話題となった最大の理由は何だと思いますか?
迫田:立地条件、SNSの発達、コロナ禍などさまざまな要因が重なったと思います。特にあの場所は信号待ちで立ち止まる時間があるので、撮影・拡散しやすかったのではないでしょうか。
大塚:確かにそうですね。クリエイティブ面ではいかがでしょうか。
山本:一度見て終わりにならないよう、インパクトだけでなくストーリー性も重視しました。例えばローンチの段階では、猫が寝転んだりしゃべったりしている比較的シンプルなコンテンツを放映したんです。まずこの場所を「キャラクターのアドレス」として認知してもらってから、次の「無重力篇」という動的なコンテンツに切り替えました。
サイネージが照らすOOHの明るい未来
大塚:企業とのコラボ作品も制作されているそうですが、どういった企業からのオファーが多いですか?
迫田:ロボット掃除機、自動車メーカー、通販サイト、ゲームやアーティストのプロモーションなどとコラボしています。出稿後、商品の売り上げが伸びたというお話も伺えており、当社としても嬉しい限りですね。
アイロボットジャパン合同会社『#ネコにルンバを』
巨大ルンバと「新宿東口の猫」の共演はS N Sでも話題に
大塚:家庭内のアイテムはほとんどコラボできるので、直接的な販促に結び付けられそうすね。YouTubeやTwitterの公式アカウントでも情報発信をされていますが、反応はいかがですか?
山本:視聴者の皆さんは、技術は技術としてとらえた上でクリエイティブとして評価いただいているようで、「この技術にあえて猫を組み合わせるセンスがいい」という声が見られました。
制作側としては、そういった反響をもとに技術ギミックを厳選してクリエイティブを洗練させることができています。また、猫というキャラクター自身を大切にしてくれていることが確認できたので、猫の魅力が伝わるコンテンツをつくるようになりました。
大塚:なるほど。視聴者の声をもとに猫が成長しているとも言えますね。ところで、映像の世界はハード面もソフト面も進歩が目まぐるしいですが、御社としてはどういったものに注目されていますか?
迫田:現時点の最新技術でいうと、「バーチャルプロダクション」と呼ばれるものがあります。これまでグリーンバックを用いていた映像合成を、撮影と同時に現場で行えるというものです。
巨大なLEDディスプレイに背景映像を映し出し、その前にセットを組んで人物撮影を行うということもできます。コロナ禍で海外ロケに行きづらくなったことや環境負荷軽減という側面から業界内で浸透しつつあり、当社でも取り組んでいます。
具体的には、2021年12月に、映像制作ワークフローにおける温室効果ガス削減とプロセス効率化を目指し発足した共同プロジェクト「メタバース プロダクション」にも参加しています。
バーチャルプロダクション技術を用いてスタジオ撮影時の廃棄資材やロケーション撮影時の参加人員を削減し、ESGの観点からもクオリティの高い映像制作を行おうとするものです。
バーチャルプロダクション イメージ
天候や時間を気にせず、ロケーション撮影が可能となる
大塚:それはすごいですね。時代の最先端を感じます。やはり、コロナの影響はあったのですか?
迫田:もちろんなかったわけではありませんが、今年に入ってからは新規クライアントの数は相当増えており、仕事の幅も広がっています。映像業界はやればやるだけ広がっていく世界ですから、未来は明るいと思っています。
大塚:楽しみですね。日本のOOH市場は今後どうなっていくとお考えですか?
迫田:「新宿東口の猫」を含めて、これまでアート作品を展示していたサイネージを広告媒体として利用できるということが一般に浸透しつつあります。街中のパブリックデバイスを通して広告が自然に存在する状況は、クライアントにとっても不動産オーナーにとっても望ましい未来ではないでしょうか。その意味で、今後さらに広がっていくと思います。
プロフィール
株式会社オムニバス・ジャパン
https://www.omnibusjp.com/
【写真右】
執行役員 プロデューサー/CGスーパーバイザー
迫田 憲二
【写真左】
メディアアーティスト
執行役員待遇クリエイティブディレクター
山本 信一
取材・文/大貫翔子
精緻な研究で猫のリアルな姿を表現
大塚:まず、御社の事業内容と特徴を教えてください。
迫田:映像業界におけるクリエイティブプロダクションとして、映像編集から音響、CG制作まで総合的に手がけています。ジャンルもCMからテレビ番組、映画、配信ドラマを基本軸に、展示映像やサイネージなど幅広く取り扱っています。
大塚:マルチでトータルにサービスを提供できるというのは強いですね。迫田さんはこれまでどういった道のりを歩んでこられたのでしょうか。
迫田:現在は経営に軸足を置いていますがもともと技術畑の人間で、CMや映画でCGスーパーバイザーなど務めていました。2018年公開の映画「空海−KU-KAI−美しき王妃の謎」ではVFXプロデューサーを担当しました。
大塚:山本さんはクリエイティブディレクターのほか、メディアアーティストとしての顔もお持ちですよね。作品の一例を教えていただけますか?
山本:近年ですと、池袋の「グローバルリング」やプラネタリウムでの映像作品、XRを使った体験型アート、日本科学未来館の球体作品などがあります。以前はディレクター業務とアーティストとしての創作活動を両立する形でしたが、現在では両立というより統合しつつありますね。
左上から、池袋グローバルリング/ MUTEK.JP / INVISIBLE ART IN PUBLIC Vol.2 Synthetic Landscapes /新宿クリエイターズ・フェスタ
大塚:OOHにもご縁が深いんですね。「新宿東口の猫」はどういったきっかけで生まれたんですか?
山本:クロス新宿のビジョンを所有するオーナーさんからのコンペ企画に参加しました。「サプライズがあるクリエイティブ」として複数案出品した中から採用されたものです。
「新宿東口の猫」
猫に会いに大勢の人が新宿を訪れた
大塚:モチーフとして猫を選んだ理由は?
山本:数年前から猫ブームと言われるように猫好きな人は多いですし、私自身もよく動画を見ています。新宿のゴジラヘッド、お台場のガンダムのように、街を象徴するランドアイコンになればという意図があり、猫を選びました。
おそらく、車やロボットではここまで注目されなかったのではないでしょうか。
また、以前に猫をフルCGで制作するため生態を研究した経緯があり、その際に得られた知見を活かしたいという想いもありましたね。テーマパークのキャラクターのように積極的に話しかけるのではなく、あくまでも猫の日常を描いたものにしようと決めました。
大塚:確かに、寝転がったり、伸びをしたり、猫のリアルな姿が描かれていますよね。猫の動きは具体的にどのように研究されたんですか?
迫田:スタッフの飼い猫を連れてきてもらって挙動を撮影したり、猫カフェに行ったり、文献で猫の筋肉や骨格を調べたりしました。表情についても膨大な量の猫の写真を参考にして喜怒哀楽を表現しています。
猫に限らず、CG制作の現場ではこのように実物をつぶさに研究するということが必要なので、これまでのノウハウが活かせたのではないかと思っています。
大塚:実際、オープンしてから大変な注目を集めましたね。これほど話題となった最大の理由は何だと思いますか?
迫田:立地条件、SNSの発達、コロナ禍などさまざまな要因が重なったと思います。特にあの場所は信号待ちで立ち止まる時間があるので、撮影・拡散しやすかったのではないでしょうか。
大塚:確かにそうですね。クリエイティブ面ではいかがでしょうか。
山本:一度見て終わりにならないよう、インパクトだけでなくストーリー性も重視しました。例えばローンチの段階では、猫が寝転んだりしゃべったりしている比較的シンプルなコンテンツを放映したんです。まずこの場所を「キャラクターのアドレス」として認知してもらってから、次の「無重力篇」という動的なコンテンツに切り替えました。
サイネージが照らすOOHの明るい未来
大塚:企業とのコラボ作品も制作されているそうですが、どういった企業からのオファーが多いですか?
迫田:ロボット掃除機、自動車メーカー、通販サイト、ゲームやアーティストのプロモーションなどとコラボしています。出稿後、商品の売り上げが伸びたというお話も伺えており、当社としても嬉しい限りですね。
アイロボットジャパン合同会社『#ネコにルンバを』
巨大ルンバと「新宿東口の猫」の共演はS N Sでも話題に
大塚:家庭内のアイテムはほとんどコラボできるので、直接的な販促に結び付けられそうすね。YouTubeやTwitterの公式アカウントでも情報発信をされていますが、反応はいかがですか?
山本:視聴者の皆さんは、技術は技術としてとらえた上でクリエイティブとして評価いただいているようで、「この技術にあえて猫を組み合わせるセンスがいい」という声が見られました。
制作側としては、そういった反響をもとに技術ギミックを厳選してクリエイティブを洗練させることができています。また、猫というキャラクター自身を大切にしてくれていることが確認できたので、猫の魅力が伝わるコンテンツをつくるようになりました。
大塚:なるほど。視聴者の声をもとに猫が成長しているとも言えますね。ところで、映像の世界はハード面もソフト面も進歩が目まぐるしいですが、御社としてはどういったものに注目されていますか?
迫田:現時点の最新技術でいうと、「バーチャルプロダクション」と呼ばれるものがあります。これまでグリーンバックを用いていた映像合成を、撮影と同時に現場で行えるというものです。
巨大なLEDディスプレイに背景映像を映し出し、その前にセットを組んで人物撮影を行うということもできます。コロナ禍で海外ロケに行きづらくなったことや環境負荷軽減という側面から業界内で浸透しつつあり、当社でも取り組んでいます。
具体的には、2021年12月に、映像制作ワークフローにおける温室効果ガス削減とプロセス効率化を目指し発足した共同プロジェクト「メタバース プロダクション」にも参加しています。
バーチャルプロダクション技術を用いてスタジオ撮影時の廃棄資材やロケーション撮影時の参加人員を削減し、ESGの観点からもクオリティの高い映像制作を行おうとするものです。
バーチャルプロダクション イメージ
天候や時間を気にせず、ロケーション撮影が可能となる
大塚:それはすごいですね。時代の最先端を感じます。やはり、コロナの影響はあったのですか?
迫田:もちろんなかったわけではありませんが、今年に入ってからは新規クライアントの数は相当増えており、仕事の幅も広がっています。映像業界はやればやるだけ広がっていく世界ですから、未来は明るいと思っています。
大塚:楽しみですね。日本のOOH市場は今後どうなっていくとお考えですか?
迫田:「新宿東口の猫」を含めて、これまでアート作品を展示していたサイネージを広告媒体として利用できるということが一般に浸透しつつあります。街中のパブリックデバイスを通して広告が自然に存在する状況は、クライアントにとっても不動産オーナーにとっても望ましい未来ではないでしょうか。その意味で、今後さらに広がっていくと思います。
プロフィール
株式会社オムニバス・ジャパン
https://www.omnibusjp.com/
【写真右】
執行役員 プロデューサー/CGスーパーバイザー
迫田 憲二
【写真左】
メディアアーティスト
執行役員待遇クリエイティブディレクター
山本 信一
取材・文/大貫翔子
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