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ポップアップストアとは『総合格闘技』である THE・STANDARD 代表取締役・吉田宗平

もともと欧米を中心に拡がり、2015年頃から日本でも注目されるようになった「ポップアップストア」。この数年で形態も多様化し、進化を遂げている。しかし、2020年はコロナによりリアル空間でのプロモーションは激減。今、ポップアップの更なる改革が求められているのかもしれない。
 
今回、ポップアップストアのコンセプト開発・戦略・集客・マーケティングなどの準備から運営までをワンストップで手掛ける専門プロデュース会社THE・STANDARD代表取締役の吉田宗平氏にSPACE MEDIAを運営するミューカ代表・大塚省伍が話を聞いた。メトロアドクリエイティブアワード プランニング部門の審査員を務め、新時代のスタンダードをつくり続ける吉田氏が想う、ポップアップの神髄、ポップアップの未来とは?

 
 

とにかく依頼者の期待を超える。クライアントもお客さんも満足させるのが使命 
 
大塚:渋谷の「ボンベイ・サファイア」のイベントではお世話になりました。スクランブル交差点の真上の極上のバーは話題になりました。
 
吉田:こちらこそ。あれは2018年の企画で完全予約制で一日10組ぐらいのバーだったですが、もしかしたら、今のご時世にもマッチした密にならない、いい企画になりますね。
 
 

ボンベイ・サファイア期間限定バー「PRIME MOMENT Bar」(2018)
 

渋谷の街の表情を楽しみながらジントニックを堪能。
 
 
吉田:あれがバズったのは、渋谷のスクランブル交差点を見下ろしながらお酒を飲むという、極上の非日常の空間が刺さったんだと思います。あの時のオーダーは“見たことがない場所にバーを作って欲しい”。山の頂上とか電波塔の展望台など、内輪の会議では色々提案したんですがイチ押しは渋谷の商業施設の屋上展望台でした。渋谷のスクランブル交差点をこの角度から眺めることは意外に今までなかったですからね。
 
 
大塚:吉田さんは他にも新しくてインパクトのあるポップアップを手掛けられています。いくつか手掛けたお仕事と共にアイデアのポイントを紹介してもらっていいですか?
 
吉田:例えばこれなんかどうでしょう。ヒゲ剃り(shave)とかき氷(shaved ice)をかけたポップアップスタンドなんですが、ヒゲ剃りシェーバーの体験PRにもかかわらず、女性やカップルが押し寄せました。最初、この企画の具現化の相談を受けた時に「これは成功しそうですね!きっと、行列できますよ!」と即答したのを覚えています。
 
企画:株式会社プラチナム 是近宏明氏
 
「IZUMI “SHAVE” STAND」(2019)
 
男性はかき氷を食べる合間に、マクセルイズミのシェービング体験も。
 
 
大塚:これはイケる!と即答できたワケは?
 
吉田:場所が渋谷センター街の奥の方で、過去に何度かやったことのある場所だったのである程度の集客と行列は予想できたという点が一つ。また、そのエリアは飲食店もいっぱいあり、空腹気味な方が多く歩いている場所なので、かき氷を無料で味わえる体験は基本あまりなく、多くの通行人に興味を持っていただけるという自信がありました。経験上、ギャップのあるコンテンツがハマる場所でもあったので。
 
そこで、僕らが考えたのはかき氷を無料で配り、食べている間に女性はヒゲの似合う男性の落書きを体験できる企画。一方男性はヒゲ剃り体験をすれば鼻毛ソリ機が無料でもらえるような仕掛けを提案させていただきました。
 
大塚:このとき特にこだわったのは?
 
吉田:マクセルイズミというブランドは60数年ぐらいの歴史を誇るヒゲ剃りの老舗ブランドで機能も優れた、質のいいシェーバーが魅力。さらに、他のメーカーでは5-6万円位の商品が、同じ機能で2-3万円台で買える。そのためターゲットは20代の若者や大学生。その世代を動かす為にはカップルだったり、女性用のコンテンツが必要だったんですよね。
 
大塚:それが「かき氷」?
 
吉田:そう。見た目にもこだわり、タピオカ・ゼリー・ミルクプリン、さらにヒゲを模したゼリーをトッピンングした、かなり美味しいかき氷を作ったんです。
 


吉田:普通に買うと400円ぐらいするちゃんとしたかき氷(笑)。無料かつ、見た目重視なものって、そんなに美味しくつくる必要がないのですが、それでも一際美味しいものを用意させていただきました、それが弊社の強みでもあるんです。その辺のギャップも実は大事なポイントかもしれません。
 
 
大塚:若者だけじゃなく、年配者向けのポップアップも手掛けられてますよね?
 
吉田:はい。たとえば60代、70代の中高年女性がターゲットの期間限定ショップもやらせていただきました。それはサンスターさんの健康飲料のポップアップだったんですが、ポイントは、最初から定期購入の契約が目的で、その契約をポップアップでたくさん獲得したいというオーダーをいただきました。
 
大塚:いきなり定期購入とはハードルが高いですね。そこで、THE・STANDARDさんの作戦は?
 
吉田:まずは、健康飲料をいきなりおすすめするのではなく、接客スタッフ全員を管理栄養士さんに依頼して、「第一にお客さんの健康相談にのること」をメインコンテンツにしました。商品説明は一旦置いといて、血管美人という健康機器を使って、その方の血管の形で「生活のくせ」をチェックし、その結果をもとに、管理栄養士さんが無料で健康状態や食生活の相談にのるような流れにしたんです。
 
血液の流れがレントゲンのような画像で一目で分かる血管美人という機器は一度体験してみたいですよね。その結果が出るまでは数分かかるので行列になりやすい。行列があるとみんな気になる、そして多くの人の足が止まる、というロジックです。
 


サンスター健康道場 期間限定ショップ(2018-2019)
 
 
吉田:お客さんの健康状態について丁寧に説明し、その流れで商品の話をしていると「これだけ親身な健康提案をしてもらったんで、あなた(管理栄養士)のこととサンスターさんのブランド力を信じて、この商品も定期購入します」という展開になりやすいんです。この新しい流れでは1日平均10件以上の定期購入が獲得できたり、土日には25件を越えたことも。これは管理栄養士さんも楽しんでお仕事していただき、新しいフォーマットができたポップアップでしたね。
 
 
大塚:毎度の企画を考える上でのポイントやこだわりは?
 
吉田:まずは依頼者の期待を超えること。ヒゲ剃りのブランドには当初「そんなに多くの方に体験していただけるのか?上手くいかないのでは?」と心配されましたが、実際始まると「自分たちの仕事でこんなに多くの若者が集まることはあまり無かった」と驚いてくれて。依頼者に「やってよかった」と思ってもらえるのが僕らの仕事であり、それを目指し、依頼者の期待を「イイ意味で裏切る」、そこがポイントですかね。
 
 

ポップアップとは『総合格闘技』である。無茶な要望の方が燃える

 
大塚:そもそも吉田さんはどういう経緯でポップアップメインの会社を立ち上げたんでしょうか?
 
吉田:もともとは2016年に今の会社を作ろうと思って動き始めていたんですが、きっかけは自分の40歳の誕生日。そのときに人生初のぎっくり腰になったんです。
 
せっかくの誕生日なのに外出できないどころか、1週間ぐらい立ちあがれないし、トイレにも壁伝いづたいで行くしかない。このままでは何もできないという、ひとりの無力さと限界を感じ、チームプレイの組織をつくりたいと切に思ったんです。つまり、一番のきっかけはぎっくり腰(笑)。ちょうどその頃、新しい事業形態を新しい仲間で会社組織でやりたいと考え始めていましたし、もちろん、ポップアップという仕事にとても魅力と実績があったのも事実です。
 
大塚:ポップアップの魅力とは?
 
吉田:広告、マーケティング、ブランディング、OMOなどの要素が全部入っている点でしょうか。リアルな店舗事業だけに思われがちですが、EC(ネット通販)と連動したりオンラインもある。数日の短期や半年ほどの中長期なものもあり、売り方、やり方は多種多様で総合力で勝つ世界。例えると「総合格闘技」みたいな。打撃だけでなく、立ち技、寝技もありだし、どうやって相手に合わせて自分の強みを出していくか、そういう手法が自分には向いていると思ったんです。
 
そのうち、ポップアップに特化した会社を作ったら仕事として楽しいしやりがいもある。飽きずに長くやっていけそうという自信もついてきたので、5名の仲間と会社を立ち上げました。
 


大塚:ご自身の得意ジャンルはあるんでしょうか?
 
吉田:特に決めないようにしています。弊社のメンバーは飲食やPRを比較的得意としている者が多いかもしれません。かつて高級ソフトクリームを販売したときは、メニューの価格帯や考え方からオペレーションにもこだわりました。ポップアップの会社でその両方ができるというのが弊社の強みですね。僕個人的にはムチャなことを言われた方が得意、というか燃えるタイプかも笑。
 
大塚:これまで燃えた案件は?笑
 
吉田:スキンケア商品とアイスブランドとのコラボですかね。しかも1日1300杯出したいとのお願い(笑)なかなかその数量は我々も未知の体験だったんですが、その時はお肌の水分量を測定器で簡易測定をして、その時の水分量に合わせたコラボオリジナルドリンクをお客様に無料提供しました。
 
そこで勉強になったのが、女性のお客さんは肌の水分量が少なかったりすると数日後にリベンジに来ることがインスタで判明したんです。会社の同僚や友達に負けたくない、SNSで自慢したいという感情で。ポップアップにおいて「くやしいからリベンジしたい」という想いが拡散につながることをインスタで学びましたね。結果、最終日は1日2000杯を達成し、今後、誰も抜けない記録をつくることができたのではないかと思います。手前味噌ながら、弊社の現場スタッフはすごいと思いましたね。
 
大塚:ポップアップでの集客やPR、マーケティングのコツがあれば教えてください。
 
吉田:出来れば本番前日とかにPRイベント(オンライン参加含む)を開いて、インフルエンサーさんに拡散してもらう。インフルエンサーさんの影響力はほんと大きいですから。特にアイスクリームはそれがすべて。
 
あとはテレビの情報番組などメディアの取材もオープンから3日間の時期に集中させる。初速を付けるってことですね。期間中にフードのメニューを変えたり、第二弾の新商品シリーズや更なるインフルエンサーを仕込むなども大事だと思います。
 
 
 
アフターコロナは応援広告が新しい未来を築くかもしれない
 
大塚:コロナでポップアップも激減したと思うんですが、これからのポップアップ、そしてOOHについても伺わせて下さい。
 
吉田:ポップアップ自体はアフターコロナでも残っていくと思います。物販型(EC連携)のポップアップは今でも多数展開されていますし、特に体験&試着などをしてもらわないと分からない商品などはこれからも残るはず。ただ、同じリアルイベントでも、アーティストライブ系はコロナ前のように全国多数会場でのツアーは厳しいかもですね。代わりのオンラインライブでそれなりに盛り上がっても、なかなかツアーグッズまで売れないのが現状。グッズはそのライブツアーのお土産効果として購入される側面もあるので。そこは、またアーティスト市場の新しい購買意欲を掻き立てるやり方を見つけていく打ち合わせを始めております。
 
 
大塚:OOHについてはいかがでしょう?新しい交通広告・OOHを創造するメトロアドクリエイティブアワードでは審査員も務められていますが。
 
吉田:優れたOOHというのは認知だけではなく、アクション&拡散されるところまで計算されている企画が多いと思ってます。たとえば、僕が審査員を務めたコンテストで特に気になった作品がコチラ!見た目としてインパクトのあるOOHがすごく魅力的だと思ったんですよね。
 
2020年準グランプリ。三菱電機のBtoB向けのOOH。
【受賞者:吉岡 龍太朗(博報堂) 共同制作者:槇野 結(博報堂)】
 
吉田:BtoB向け商品なので一般の方にはどんなものか分かりにくいんですが、まず完成されたアナログとデジタルの共存空間にいい違和感があって写真を撮りたくなる。広告って一方的に訴求したい情報を突きつけてくるタイプがほとんどですよね。でも、「近くまで寄って見たくなる、気になる」そんな広告が今後は残っていくかもしれません。
 
僕が審査員をしているメトロアドクリエイティブアワードでは毎年約300の企画書を審査させていただくのですが、同じような企画、同じ切り口なものがいっぱいあるんです。でも、ビジュアルの見せ方だったり、仕掛け方、表現で飛び抜けたものが毎年必ずあるんですよね。それを発見できた時は嬉しいし、楽しいですね。
 

 

吉田:そして「応援広告」も新しい形になり得ると思っています。数年前にドラクエの応援広告が話題になりましたよね。新宿の壁面に現れた10万匹のスライムを討伐する広告。あのような、お客さん巻き込み型広告は思いも伝わるし、心に響く。
 
これからは、応援広告という手法がアフターコロナに増えていきそうな気がします。世の中広告だらけなので、とにかく心揺さぶるような広告が新しい未来を築いていくと思っています。
 

 
まとめ 

今、こんな時代だからこそ進化したポップアップが求められ新たな表現と才能が問われている。デジタルやバーチャルが発展を遂げる中、実は、人の想いや人の心が感じられるアナログな温かみがより大切になってくるのではないだろうか。これから出会えるポップアップ、OOHに期待したい。
 


株式会社THE・STANDARDでは、複数種類のポップアップストア勉強会を開催中。誰でも無料で気軽に吉田社長や専門プロデューサーにポップアップストアの出店のご相談やご質問、最新トレンドについて情報交換ができます。
http://t-standard.jp/category/event/


プロフィール
 

 
吉田宗平  THE・STANDARD 代表取締役 プロデューサー
 
オンラインとオフラインを超えた「ニューリテール」「ポップアップストア」で新時代リード獲得を研究中。ストア集客・PR・運営まで全領域プロデュース、フードデリバリー等。「オンライン接客・商談」「ライブ配信」などのコンセプト開発、デジタルソリューション立案、PR・運営まで全領域を手掛ける。「バーチャルポップアップストア 」「バーチャル(ゴースト)レストラン」「オフィスカフェ」などのコンセプト開発、運営まで全領域をワンストップで手掛ける専門プロデュース会社を2017年に設立。副業&兼業プロデューサー募集中。バブルサッカー、ビリッカーの発起人。メトロアドクリエティブアワード審査員、宣伝会議/SC講座定例講師/富山県出身
 
 
取材・文/太田光洋

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